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著者プロフィール


ライフワークの発見と実現


黒川知文

神様により守られた
 
 指導教授から学位論文を書くように言われた。驚き、また悩んだ。私には書く自信がなかったからである。留学から帰国して大学で教え始めて七年。この間、大学での教育と神学の学び、育児、教会奉仕などにかまけて、研究らしい研究をしていなかった。岩波書店から初めて本が出たことに満足して、自分に甘えていた。慢心と怠惰の罪。実際上研究を進めるにも、史料が足りなかった。歴史研究は方法論と史料で成立するので、史料がないのは致命的なことであった。
このような時、感謝なことに、勤務している大学から研究費を豊かにいただき、夏の一週間、米国で史料収集にあたることになった。この一週間で十分な史料が集まらないと、学位論文は書けない。この覚悟と祈りをもって、一九九二年八月二三日に、成田を発ち、米国に向かった。
 ニューヨークにある東欧ユダヤ古文書館(YIVO)を中心として、ニューヨーク市立図書館、ワシントンにある議会図書館にも赴き、朝から晩まで史料収集とコピー作成にあたった。神様の助けにより、予想をこえた多くの史料を集めることができた。19世紀末のウクライナで発生したユダヤ人迫害(ボグロム)に関する同時代のユダヤ新聞記事とウクライナ新聞記事、さらにこの迫害をめぐるロシア正教会の対応に関する研究論文などの貴重な史料もみつかった。ただ、同時代のロシア正教会の雑誌は、貸し出し中であり見つからなかった。ペテルブルク中央図書館かヘルシンキ大学図書館にあるとのことだった。一週間で、日本では得ることのできない価値ある史料のコピーと書籍が手にはいった。感謝であった。
 史料を集めることのできる最後の土曜日。できる限り無駄なく多くの史料をあつめようと、開館直後に議会図書館に入り、読みたい本のカードを調べた。古い本はコンピューターに入力されていないので、一冊毎に、厖大な数のカードでその所在を見つけなければならない。時間は限られている。そういう時、何百枚におよぶカードから、最初に手に触れたカードが探していた本であったという不思議な体験をさせていただいた。私は戦慄を覚えた。
 リストアップした図書請求カードをすべて図書館員に渡した。黒人女性の図書館員は、
 「こんなに多く請求できません」と言った。
 「では何冊まで請求できますか?」と問うと、
 「二〇冊です」と答えて彼女はカードの枚数を数えだした。するとそれはちょうど二〇枚であった。驚いた。
 このように、史料を集める時にも神様の守りと導きを感じさせていただいた。
 議会図書館のあるワシントンまで行く列車の駅は泊まったホテルのすぐ近くにあったので、午前五時の一番列車に乗ることができた。また、議会図書館に最も近い高級ホテルは、いつもの三割の週末割引料金で泊まることができた。このように、一切無駄なくできたことにも、神様のみわざを感じることができた。
 日曜日。礼拝をすませて午後に七年ぶりにエール大学を訪れた。かつての友人は皆大学教授となり、彼らも現在博士論文を執筆中との事であった。研究意欲が強められ帰国した。

エール大学写真
http://www.facilities.yale.edu/Campus/Campus.asp

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