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著者プロフィール


ライフワークの発見と実現


黒川知文

信仰により完成する

 論文提出日の前日の昼頃に論文はすべてパソコンにはいった。あとは印刷するだけである。O君は卒業単位となる集中講義があったために、印刷の手順を私に教えて研究室を出て行った。だが、彼が教えた通りに印刷しようとするとパソコンがとまってしまった。私は真っ青になり日頃から信頼しているF職員に電話した。
  「Fさん、助けて」
  私の叫びにF職員はすぐに研究室に駆けつけてくれた。そして日頃見せない真剣な目つきをしてパソコンの修理をしてくれた。パソコンはなおり、一枚ずつ印刷し出した。ほっとした。
  だが、夕方頃、あと数枚になったところで今度は印刷機がおかしくなって止まってしまった。F職員がいくら試みてもなおらない。そこへ授業がおわってO君が帰ってきた。O君は事態を理解して、この時、自分の寮の部屋から重たい自分の印刷機を私の研究室までわざわざ運んできてくれた。
  そしてすべての印刷が完了した。
  「先生、信仰によってできあがりましたね。神様が助けてくださいましたね」
  分厚い論文を見て喜んでいるわたしにO君がにこにこして言った。F職員も笑ってうなずいた。
  研究室を出て大急ぎでコピーを五部つくり、本郷の印刷屋に向かった。電車の中でページを点検した。午後八時半、印刷屋に着いたがしまっていた。今日、印刷屋に渡さないと明日までに製本できない。電話で夜に論文を持ってくると言ったのに店は閉じられている。私は途方にくれた。そして指導教官の家に電話してどうしたらよいか伺った。彼は落ち着いていて、明日早く印刷屋に論文を持っていくとその日のうちに簡易製本ならできるかもしれないこと、万一だめなら大学院共同研究室に製本機がありそれを使っても簡易製本ができることを教えてくれた。
  翌朝早く印刷屋に行くと、昨日は七時半まで待っていたが私が来なかったので店を閉じて家に帰ったとのこと。あいそのよい印刷屋の老夫婦は昼頃までに簡易製本をしますと答えた。製本ができるまでの間、論文の要約をワープロで作った。予想をこえたかなりの枚数であったが短時間で要約を作成することができた。そして十二月二二日午後四時、すなわち提出期限の時刻に五部の論文を文学部事務室に無事に提出することができた。体から全ての力がぬけ、幸福感が確かに満ちてきた。
  神様は私たちに幻を与えられる。幻は、計画をたてて勤勉に現在やるべきことをひとつずつ祈りつつしていくことによって実現していく。幻が実現していくときに、神様は障害物を必ず置かれる。それを信仰によってひとつずつ乗り越えることによって不可能が可能になっていく。この経験をした者は、さらに大きな幻をいだく。

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